私の家は茶工場が隣にあり、小さい頃からお茶の香りが好きで、学校から帰るとすぐ工場に行き、刈ったばかりの生葉の中に入って遊んでいた記憶があります。子供ながら、お茶の香りは人に幸せを運ぶものと思っていました。朝霧がたちこめる奈良月ヶ瀬で、有機肥料を主とした環境にやさしい土作りに取り組み湧き水を使って蒸し、より透明感のある水色(すいしょく)と“まろ味”を目指して製造しております。
お茶の淹れ方は、お湯を冷まし、それを茶葉に掛からない様に急須の縁からそそぎ、茶葉が八分目開いた状態で、最後の一滴までそそぎ淹れます。透明な青みを帯びた水滴が、緑の香りを漂わせながら茶碗を満たしていく、この瞬間が、私は好きなのです。それは、お茶を介して目の前の人と繋がっていくと確信できる瞬間だからです。いつの時代も、私達が最も大切にしないといけないのは「人と人のつながり」だと思います。
“お茶でも一服”は、それを演出する先人の知恵だと思っています。
井ノ倉光博